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Description
中性子は電荷を持たないためクーロン力による影響を受けにくく、また低速中性子では長い波長を持つ物質波としての性質が顕著に現れる。このため、中性子は精密なスピン制御や干渉・透過測定を通じて、微小な対称性の破れや未知相互作用を探索するための強力なプローブとなる。
本講演では、中性子を用いた時間反転対称性の破れ探索として、中性子電気双極子モーメント探索: TUCAN実験と原子核-中性子系におけるT-odd断面積の探索:NOPTREX実験を紹介する。中性子EDM 探索では、100neV程度まで運動エネルギーを落とした超冷中性子を電場・磁場中に長時間蓄積し、電場の反転に伴う中性子スピン歳差周波数の変化を測定する。現在、TUCAN コラボレーションは TRIUMF において次世代超冷中性子源を用いた実験を進めている。2026年1月にはEDM測定容器へのUCN貯蔵を実施し、先行実験のUCN密度を1桁上回る結果を得ることに成功し、現在の世界最高感度を一桁改善することを目指している。
一方、NOPTREXは、1eV程度の偏極熱外中性子ビームと偏極原子核標的を用いて、複合核共鳴における時間反転対称性を破るスピン相関項を探索する実験である。139Laや131Xeなどの中重核では、eV 領域の中性子吸収により形成される複合核共鳴において、核子間の弱い相互作用に由来する空間反転対称性の破れの効果が最大10^6倍程度まで大きく増幅されることが知られている。J-PARCにおける一連の測定から、139La+n の 0.75 eV p 波共鳴では、時間反転対称性を破る相互作用に対しても大きな増幅効果が期待できることが明らかになってきた。現在J-PARCにおいて低感度探索実験や将来実験に向けた開発が進行中である。
これらはハドロン系において異なるCP 非保存相互作用に感度を持つため、標準模型を超えたCPの破れを多角的に調べる上で相補的な役割を果たす。本講演では、これらの物理的背景、現在の開発状況、そして中性子を用いた時間反転対称性の破れ探索の今後の展望について述べる。