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量子コンピュータの実用化に向けた研究が進む中、量子誤り訂正は、近年では量子情報科学と物性物理の境界領域において、重要な研究テーマとして注目されている。中でも、Kitaev らによって提案された表面符号 [2, 3] は、初期の量子誤り訂正符号として広く知られている。
本発表では、[1]の論文をレビューし、表面符号を用いた誤り訂正が可能となるエラー率の範囲が、統計力学モデルの枠組を用いて解析できることを解説する。
[1] によれば、表面符号の誤り訂正能力が、accuracy threshold [4] を境界として可能から不可能へと変化する現象は、対応する統計力学モデルにおける強磁性・常磁性相転移として記述される。特に、誤り測定が完全に実行可能であるような理想的な場合では、accuracy threshold は2次元ランダムボンド Ising 模型の Nishimori line [5] 上の臨界点から決定され、その値は約11%と算出される。
本発表では、上記のような、表面符号が対応する統計力学モデルの相転移に焦点を当てて、[1] のレビューを行う。
また、近年の量子誤り訂正と物性物理に関する研究の進展についても、可能な限りで紹介する予定である。
[1] E. Dennis, A. Kitaev, A. Landahl, and J. Preskill, Journal of Mathematical Physics 43, 4452 (2002).
[2] A. Y. Kitaev, in Proceedings of the Third International Conference on Quantum Communication, Computing and Measurement, edited by O. Hirota, A. S. Holevo, and D. M. Caves (Plenum Press, New York, 1996).
[3] A. Y. Kitaev, quant-ph/9707021 (1997).
[4] E. Knill, R. Laflamme, and W. H. Zurek, Proc. Roy. Soc. London, Ser. A 454, 365 (1998), quant-ph/9702058.
[5] H. Nishimori, Progress of Theoretical Physics 66, 1169 (1981).