2025/12/19 佐藤先生のご講演動画を公開しました。
2025/08/07 ポスター発表についてのページを追加しました。
2025/07/23 オンライン参加に限り参加登録を再開しました。
2025/07/19 参加登録を締め切りました。
2025/07/15 現地参加の登録を締め切りました。
2025/07/05 旅費補助の申請を締め切りました。
2025/06/16 講演タイトルを掲載しました。
2025/05/30 Webページ、参加登録、発表申込フォームをオープンしました。
- 会場の収容人数および参加者数について本研究会における現地参加希望者数が、会場の収容可能人数を上回る見込みです。つきましては、定員に達した時点で、やむを得ず現地参加の登録を締め切らせていただきます。現地参加の登録締切後もオンラインでの参加登録は可能です。
現地参加希望者数が会場の収容可能人数に達したため登録を締め切ります。大変申し訳ありませんが、ご理解を賜りますようお願い申し上げます。なお、オンラインでの参加登録は7/18(金)まで可能です。
数多くのお問い合わせをいただきましたため、オンライン参加の参加登録期間を8/31(日)まで延長致します。なお、参加登録人数がZoomウェビナーの人数制限に達する見込みとなった場合は、期間の途中でも参加登録を終了させていただきますので、ご了承下さい。
近年、量子基礎論と量子情報科学の融合的な進展は目覚ましく、不確定性原理や量子もつれといった量子の特異な性質が、通信・暗号・計算などの情報技術に革新をもたらしています。こうした新たな知見は、ベルの定理をはじめとする「実験形而上学」の発展や、量子力学の「情報理論的」理解を一層深めるフィードバックとして機能しています。
そこで量子力学誕生100周年を契機に、量子基礎論および量子情報科学の最前線の知見を共有し今後の量子論のさらなる発展を議論する場として本研究集会を開催します。当研究会では量子基礎論および量子情報科学の最先端で活躍する研究者による発表や学生・若手研究者向けのチュートリアル講義・ポスター発表に加え、素粒子・宇宙・物性分野の研究者との学際的な交流の場を提供します。参加者同士の活発な意見交換を通した新たなアイデアの創出や、若手研究者の育成を期待しています。量子論に関心のある学生や若手研究者、更には分野外からの参加者も大歓迎です。この貴重な機会に次世代の量子科学の未来を共に切り拓いていきましょう。
※本研究会の口頭講演は招待講演のみです。ポスター発表は参加者から募集しております。
● 日程:2025年9月8日(月) 〜 9月12日(金)
● 場所:京都大学 基礎物理学研究所 湯川記念館 パナソニック国際交流ホール [オンライン配信あり※1]
(基礎物理学研究所へのアクセスはこちら)
● 参加登録、ポスター発表申込、発表概要提出:7月18日(金) 締切※2
旅費補助申込:7月4日(金) 締切※3
※1 オンライン参加のみを希望される方も参加登録が必要です。
※2 発表概要の提出にはIndico YITPのアカウント取得が必要です(アカウント取得はこちら)。
※3 主に学生を対象として、ポスター発表者の中から希望者に旅費の援助を行います。予算に限りがあるため、研究費等をお持ちの方はなるべくそちらをお使いください。旅費補助希望者の人数によっては、支給者の選定および一部補助になる場合もございますので、ご了承下さい。
当研究会では、量子基礎論および特に繋がりの深い量子情報科学における問題点を整理することで、物理学に更なる発展をもたらすことを目指します。量子基礎・量子情報分野における最先端の研究成果はもとより、近年の両分野の発展を背景とした、素粒子・宇宙・物性との分野横断的な研究成果の発表を強く歓迎します。
● 9月8,9日:チュートリアル講演、ポスターセッション
● 9月10,11,12日:招待講演、ポスターセッション
詳細はタイムテーブルのページをご覧ください。
木村 元(芝浦工業大学)
‘‘ベル定理と実験形而上学”
中田 芳史(京都大学基礎物理学研究所)
‘‘量子力学から量子情報へ”
宮寺 隆之(明治学院大学)
‘‘量子論における両立不可能性”
伊藤 憲二(京都大学)
‘‘量子物理学史における1925年’’
井元 信之(東京大学)
‘‘量子波長変換 -量子コンピューターと量子通信の根本技術-’’
上田 正仁(東京大学)
‘‘Beyond-Hermitian Quantum Physics’’
内山 智香子(山梨大学)
‘‘量子開放系の諸問題’’
小澤 正直(名古屋大学, 理化学研究所)
‘‘量子測定理論の発展:普遍的不確定性原理から量子間主観性定理へ’’
川上 恵里加(理化学研究所)
‘‘浮揚電子による量子ビット’’
菅野 優美(九州大学)
‘‘時空の量子力学と宇宙’’
小芦 雅斗(東京大学)
‘‘量子暗号のセキュリティ理論から見える量子力学’’
佐藤 文隆(京都大学名誉教授)
‘‘量子力学の100年’’
清水 明(東京大学, 大阪大学, BlocQ Inc.)
‘‘Is quantum mechanics consistent with thermodynamics?’’
高柳 匡(京都大学基礎物理学研究所)
‘‘重力理論と量子情報’’
谷村 省吾(名古屋大学)
‘‘量子系から古典系の創発と確率解釈の由来’’
谷本 溶(ローマ・トル・ヴェルガータ大学)
‘‘代数的場の量子論の基礎的な問題’’
筒井 泉(日本大学, 高エネルギー加速器研究機構)
‘‘量子性の根源を求めて:量子異常から量子物理量へ’’
中平 健治(玉川大学)
‘‘量子論の図式表現とその応用例’’
中村 泰信(理化学研究所)
‘‘超伝導量子コンピュータの研究開発’’
長谷川 祐司(ウィーン工科大学、北海道大学)
‘‘量子力学の基礎問題への実験的アプローチ 〜中性子を用いた量子光学実験〜’’
平野 琢也(学習院大学)
‘‘量子暗号とエンタングルメント’’
布能 謙(東京大学)
‘‘熱力学的トレードオフ関係における量子効果・情報量’’
細谷 曉夫(東京科学大学名誉教授)
‘‘量子力学を自然な言葉で語ること’’
森 立平(名古屋大学)
‘‘スタビライザー状態の数理とマトロイド理論’’
李 宰河(東京大学)
‘‘不確定性原理の諸相’’
ブレーク代1人500円。意見交換会参加者は別途会費(1人4000円前後を予定)。ブレーク代、会費は学会当日に現地で集金します。
本研究会は基研研究会の一環として、
・京都大学 基礎物理学研究所
の補助を受けて開催されています。
荒井 駿(東京大学)
木村 元(芝浦工業大学)
倉持 結(九州大学)
佐々木 寿彦(Quantinuum K.K.)
高倉 龍(大阪大学、連絡責任者)
中田 芳史(京都大学基礎物理学研究所)
松浦 孝弥(理化学研究所)
皆川 慎太朗(エクス=マルセイユ大学)
量子基礎論の中心的なテーマの一つにベルの定理がある.この定理は,量子論,ひいてはこの世界の本質を理解するために,素朴な実在論や局所的な世界観が妥当かどうかを,科学的に議論する道を開いた.もう少し正確に言えば,アインシュタインをはじめとする多くの物理学者が重視した「実在」(すなわち,観測とは独立に対象が「存在する」こと)という考えに対し,自然科学として重要な前提である局所性,さらに測定の種類を自由に選べるという前提(いわゆる「自由意志」の存在)を仮定すると,ある不等式(ベルの不等式)が成立することが証明される.
重要なのは,この不等式が実験によって検証可能な形をしていることであり,しかも量子論はその不等式の破れを予言する点にある.1970年代後半から始まった実験的検証により,この破れは統計的に優位に確認されており,私たちの世界を局所実在論に基づいて説明することはできないという,きわめて驚くべき結論が導かれている.
ベルの定理は「科学における最も深遠な結果」とも評されるほど,その意義は計り知れないが,それと同時に,「実在」や「自由意志」といった,それ自体では実証不可能な形而上学的概念が,適切な仮定のもとで組み合わされることで,実験による検証が可能となるという事実も,極めて重要である.
かつてシモニーはこれを「実験形而上学」と呼び,その後,レゲット–ガークの不等式,因果不等式,友人不等式など,ベルの定理にとどまらない実験形而上学の展開が進んでいる.
本チュートリアル講演では,こうした背景をふまえつつ,ベルの定理を中心とした実験形而上学の意義と内容について,物理学として過度に哲学的になりすぎない形で,丁寧に解説することを目指す.
量子情報科学のここ数十年の目覚ましい発展により、量子力学が情報科学と極めて相性がよいことが判明してきた。実際、これまで実現が困難とされてきた情報処理タスクであっても、量子力学的な現象をうまく活用することで実現できる例が数多く見つかっている。では、なぜ量子力学は情報科学と相性がよいのだろうか。そして、量子情報科学の発展は、例えば量子コンピュータによる計算速度の向上といった実用的な価値を超えて、量子基礎論や量子物理学に対して、新たな科学的知見をもたらすことができるのだろうか。これらの問いに明確に答えることは現代の人類にとってはまだまだ荷が重く、今後の研究が解き明かしていくべき課題である。本チュートリアルでは、量子情報科学の基礎を概観した上で、「なぜ量子情報科学なのか」を(なんとなく)考えるきっかけを与え、本研究会での議論へとバトンをつなぎたい。
不確定性原理によれば、位置と運動量は同時に測定することはできない。また、コピー不可能性定理によれば未知の量子状態をコピーすることはできない。前者は位置の測定と運動量の測定が同時には実行できないこと、後者は二つの恒等変換が同時には実行できないことをあらわしている。このような同時に実行できない操作の組は、両立不可能な操作の組と呼ばれているが、この両立不可能性の存在は古典論にはない量子論の特徴である。本講演では、これら両立不可能な組がどのように特徴づけられるか、またどのように調べられるかについて、いくつかの知見を紹介する。
TBA
量子基礎論の中心的なテーマの一つにベルの定理がある.この定理は,量子論,ひいてはこの世界の本質を理解するために,素朴な実在論や局所的な世界観が妥当かどうかを,科学的に議論する道を開いた.もう少し正確に言えば,アインシュタインをはじめとする多くの物理学者が重視した「実在」(すなわち,観測とは独立に対象が「存在する」こと)という考えに対し,自然科学として重要な前提である局所性,さらに測定の種類を自由に選べるという前提(いわゆる「自由意志」の存在)を仮定すると,ある不等式(ベルの不等式)が成立することが証明される.
重要なのは,この不等式が実験によって検証可能な形をしていることであり,しかも量子論はその不等式の破れを予言する点にある.1970年代後半から始まった実験的検証により,この破れは統計的に優位に確認されており,私たちの世界を局所実在論に基づいて説明することはできないという,きわめて驚くべき結論が導かれている.
ベルの定理は「科学における最も深遠な結果」とも評されるほど,その意義は計り知れないが,それと同時に,「実在」や「自由意志」といった,それ自体では実証不可能な形而上学的概念が,適切な仮定のもとで組み合わされることで,実験による検証が可能となるという事実も,極めて重要である.
かつてシモニーはこれを「実験形而上学」と呼び,その後,レゲット–ガークの不等式,因果不等式,友人不等式など,ベルの定理にとどまらない実験形而上学の展開が進んでいる.
本チュートリアル講演では,こうした背景をふまえつつ,ベルの定理を中心とした実験形而上学の意義と内容について,物理学として過度に哲学的になりすぎない形で,丁寧に解説することを目指す.
量子情報科学のここ数十年の目覚ましい発展により、量子力学が情報科学と極めて相性がよいことが判明してきた。実際、これまで実現が困難とされてきた情報処理タスクであっても、量子力学的な現象をうまく活用することで実現できる例が数多く見つかっている。では、なぜ量子力学は情報科学と相性がよいのだろうか。そして、量子情報科学の発展は、例えば量子コンピュータによる計算速度の向上といった実用的な価値を超えて、量子基礎論や量子物理学に対して、新たな科学的知見をもたらすことができるのだろうか。これらの問いに明確に答えることは現代の人類にとってはまだまだ荷が重く、今後の研究が解き明かしていくべき課題である。本チュートリアルでは、量子情報科学の基礎を概観した上で、「なぜ量子情報科学なのか」を(なんとなく)考えるきっかけを与え、本研究会での議論へとバトンをつなぎたい。
量子情報科学のここ数十年の目覚ましい発展により、量子力学が情報科学と極めて相性がよいことが判明してきた。実際、これまで実現が困難とされてきた情報処理タスクであっても、量子力学的な現象をうまく活用することで実現できる例が数多く見つかっている。では、なぜ量子力学は情報科学と相性がよいのだろうか。そして、量子情報科学の発展は、例えば量子コンピュータによる計算速度の向上といった実用的な価値を超えて、量子基礎論や量子物理学に対して、新たな科学的知見をもたらすことができるのだろうか。これらの問いに明確に答えることは現代の人類にとってはまだまだ荷が重く、今後の研究が解き明かしていくべき課題である。本チュートリアルでは、量子情報科学の基礎を概観した上で、「なぜ量子情報科学なのか」を(なんとなく)考えるきっかけを与え、本研究会での議論へとバトンをつなぎたい。
量子コンピュータの実用化に向けた研究が進む中、量子誤り訂正は、近年では量子情報科学と物性物理の境界領域において、重要な研究テーマとして注目されている。中でも、Kitaev らによって提案された表面符号 [2, 3] は、初期の量子誤り訂正符号として広く知られている。
本発表では、[1]の論文をレビューし、表面符号を用いた誤り訂正が可能となるエラー率の範囲が、統計力学モデルの枠組を用いて解析できることを解説する。
[1] によれば、表面符号の誤り訂正能力が、accuracy threshold [4] を境界として可能から不可能へと変化する現象は、対応する統計力学モデルにおける強磁性・常磁性相転移として記述される。特に、誤り測定が完全に実行可能であるような理想的な場合では、accuracy threshold は2次元ランダムボンド Ising 模型の Nishimori line [5] 上の臨界点から決定され、その値は約11%と算出される。
本発表では、上記のような、表面符号が対応する統計力学モデルの相転移に焦点を当てて、[1] のレビューを行う。
また、近年の量子誤り訂正と物性物理に関する研究の進展についても、可能な限りで紹介する予定である。
[1] E. Dennis, A. Kitaev, A. Landahl, and J. Preskill, Journal of Mathematical Physics 43, 4452 (2002).
[2] A. Y. Kitaev, in Proceedings of the Third International Conference on Quantum Communication, Computing and Measurement, edited by O. Hirota, A. S. Holevo, and D. M. Caves (Plenum Press, New York, 1996).
[3] A. Y. Kitaev, quant-ph/9707021 (1997).
[4] E. Knill, R. Laflamme, and W. H. Zurek, Proc. Roy. Soc. London, Ser. A 454, 365 (1998), quant-ph/9702058.
[5] H. Nishimori, Progress of Theoretical Physics 66, 1169 (1981).
本研究では、Rényiダイバージェンスを拡張した多パラメータRényiダイバージェンス(multivariate Rényi divergence)の特徴づけを行う。具体的には、状態識別(state discrimination)を拡張した「state betting」というタスクを定義し、経済学の枠組みに基づいてその「価値」を定量化する。この定量化された「価値」が多パラメータRényiダイバージェンスにより記述されることを示し、更に測定のリソース理論への応用も示す。本研究を通して、多パラメータRényiダイバージェンスの「現実的な」意味について議論を深めたい。
一部の量子多体系の熱平衡状態は量子モンテカルロ法と総称される手法群によって古典的なサンプリング問題に帰着でき、多くの場合効率的に古典シミュレート可能であることが知られている。しかし、一般には負の確率でのサンプリングに対応する「負符号問題」が発生し、そのような量子多体系に関する研究には量子モンテカルロ法は適さない。この負符号問題は量子多体系の数値研究を行うにあたっての実践的な障壁であるだけでなく、多体系における量子/古典を理論的に区別する本質的な指標であると示唆する計算複雑性の分類定理も存在する[1]が、どのような場合に負符号問題が解消できるのかに関しては多くの点が未解決である[2,3,4]。
本研究では、Clifford回路を用いて負符号問題を解消することを考察する。すなわちClifford回路として表現可能なユニタリ変換で、与えられた量子系のハミルトニアンを非対角が全て非正になる(Stoquasticと呼ばれる)ように基底変換を施すことを考える。Clifford回路は古典計算可能な回路族である一方でエンタングルメントも生み出せ、グローバルな基底変換を考える際に都合が良い。我々は与えられたハミルトニアンがClifford回路を用いてstoquasticに変換可能かを問う問題がNP困難であることを証明した[5]。
本発表では、背景と共にNP困難性の結果と、Clifford回路を用いて非自明に負符号問題を解消できる具体例を説明する。
[1] T. Cubitt and A. Montanaro, SIAM J. Comput. 45, 268 (2016).
[2] M. Marvian, D. Lidar, and I. Hen, Nat. Commun. 10, 1571 (2019).
[3] J. Klassen, M. Marvian, S. Piddock, M. Ioannou, I. Hen,
and B. M. Terhal, SIAM J. Comput. 49, 1332 (2020).
[4] I. Hen, Phys. Rev. Research 3, 023080 (2021).
[5] J. Takahashi and M. Marvian, in preparation.
近年、量子状態の精密な制御を実現する手法として断熱量子制御が注目を集めている。しかし、断熱制御はその性質上、長い時間を必要とし、環境との相互作用によるデコヒーレンスの影響を受けやすいという課題がある。こうした課題を克服する手法として、短時間で断熱的な遷移を実現する断熱ショートカット(Shortcuts to Adiabaticity, STA)が理論的・実験的に研究されている。本研究では、STAの代表的な手法であるカウンターダイアバティック駆動(Counterdiabatic Driving, CD)に着目する。CDは、元のハミルトニアンに補助的なCD項を加えることで、非断熱な遷移を抑制する制御手法であるが、実際の制御場にノイズが含まれることは避けられない。本研究では、CD項にホワイトノイズ的な揺らぎが加わった場合を想定し、そうした揺らぎが非断熱遷移に与える影響を数値計算および摂動計算を用いて解析する。CD制御の実装上のロバスト性を評価することを目的とする。
現代物理学の課題である量子重力理論の構築にあたっては、「そもそも重力が本質的に量子的であるべきかどうか」という問いに対して明確な答えを出す必要がある。本研究では、重力を古典的な場として取り扱う半古典重力理論の立場から、この問題の検証を試みる。半古典重力理論とは、重力場を古典的に、物質を量子的に扱う理論模型であり、なかでも近年Oppenheimによって提案された"相対論的半古典重力模型"が注目を集めているが、その理論的理解は十分とは言えない。本研究では、この模型の相対論的性質に着目し、量子的粒子における測地線偏差の量子ゆらぎを理論的に導出し、その最小値を数値的に評価した。さらに、この結果の重力波検出器による観測可能性を検討し、摂動的量子重力理論による予測との比較を通じて、当該模型の特徴と限界について考察を行う。
重力の量子的性質は、基礎物理学における未解決問題であり、いまだ実験的な検証がなされていない。重力波は、仮説上の重力の量子的キャリアである重力子を検出するための有望な手段を提供する。しかし、重力子と古典的な重力波とを区別するには、量子コヒーレンスの保持が必要であり、それは宇宙環境との相互作用によって生じるデコヒーレンスによって失われる可能性がある。スカラー場が重力に共形結合している環境モデルを用いて、縮約密度行列を導出しデコヒーレンス汎関数を評価することで、重力波が量子状態を保持するかどうかを調べる。その結果、重力波の量子デコヒーレンスは低周波数および高再加熱温度でより強くなることが分かった。そして、デコヒーレンスが無視できる振幅の閾値をモデル非依存的に特定し、重力の量子的性質やインフレーション機構を直接検証する上での基本的限界を提示する。本ポスターでは、重力の量子から古典への遷移について報告する。
微視的な世界を記述する量子力学においては,一般に複数の物理量が同時に確定的な値を取ることができない.この性質は,不確定性原理として知られている.不確定性関係は,この原理を定量的に表現したものであり,準備型不確定性関係としては,任意の物理量$A,B$に対するRobertson型の不確定性関係,およびそれをさらに一般化したSchrödinger型の関係が有名である.
本研究[1]では,Robertson型で用いられる交換子の期待値に基づく不確定性関係の改善を試みた.その結果,驚くべきことに,最適な係数は従来の$\frac{1}{4}$ではなく,量子状態の最小および最大固有値によって決まることがわかり,Robertson型を一般化するタイトな不確定性関係を導くことができた.この新しい不確定性関係は,状態が混合になるほど強い制約となり,従来のRobertson型では見過ごされていた量子(非可換性)由来の不確定性のトレードオフを捉えることができる.さらに,この関係はSchrödinger型の不確定性関係への直接的な一般化も可能である.加えて,測定型不確定性関係であるArthurs-Goodmanの不等式,および小澤の不等式に対する定量的側面での一般化も得られる.
[1] G. Kimura, A. Mayumi and H. Yamashita, arXiv:2505.19861[quant-ph] (2025).
本発表では,量子ビットを局所的なプローブとして用い,準周期系の物理的特性を読み出す理論的枠組みを提案した論文 [PhysRevA.103.023330 (2021)] のレビューを行う.同論文では,代表的な準周期系である Aubry-André-Harper (AAH) モデルに1つまたは2つの量子ビットを結合させ,その開放系ダイナミクスを解析している.鍵となるアイデアは,AAHモデルの内部状態を量子ビットのデコヒーレンスに反映させることである.この位相緩和ダイナミクスを観測することで,AAHモデルが持つ局在−非局在転移や系の輸送特性といった情報を読み出せることを理論的に示した.本ポスター発表では,この先駆的な手法を紹介するとともに,プローブとなる量子ビット(開放系)のダイナミクスがどのようにして準周期系の難解な性質を明らかにするのか,その物理的な関係性について議論を深めたい.
量子情報処理における本質的なタスクは量子状態の変換であり、その物理的過程は量子通信路(CPTP 写像)として定式化される。特に、現在の量子コンピュータのように、ノイズを含む量子通信路しか使えない状況で、できるだけノイズのない量子状態変換を再現することは重要な課題である。
本研究では、ノイズ $N$ を含む未知の量子通信路 $N(\mathcal{E})$ を複数回使い、本来の純粋な量子通信路 $\mathcal{E}$ を近似する際の精度の理論的上限を解析している。このような未知量子通信路の変換タスクについては半正定値計画法とユニタリ群の表現論を用いた解析が主流になっているが、現状では量子状態 [1] やユニタリ通信路 [2, 3] など限られたクラスの量子通信路に関する理解しか得られていない。今回扱う量子通信路の純粋化というタスクは基本的ながら未解明のものであり、本研究を通じてより一般的な量子通信路に対する解析手法を確立することを目指している。
[1] Z. Li, H. Fu, T. Isogawa, and I. Chuang, arXiv:2409.18167 (2024).
[2] M. T. Quintino and D. Ebler, Quantum 6, 679 (2022).
[3] S. Yoshida, A. Soeda, and M. Murao, Phys. Rev. Lett. 131, 120602 (2023).
「行える操作に制限がある場合にどのような変換が許されるか」を特徴づけるのは、物理学における重要な問題の一つである。従来、量子エンタングルメントや量子マジックなどの多くの制限下では、多量のnoisyなチャネルから少量のpureなチャネルへのチャネル蒸留変換について、インプットの個数$n$とアウトプットの個数$m$との比$m/n$によって決まる線型レートでの変換境界が知られていた。また量子測定については解析の困難さなどから、制限下での測定変換が未研究であった。本研究では、エネルギー保存則(時間並進対称性)の制限下で、量子チャネルと量子測定の漸近蒸留変換を考察した。エネルギー保存下ではエネルギー基底間の量子コヒーレンスを0から生成できないという制約がある。このエネルギー保存の下での解析の結果、量子チャネル・測定ともに$m/\sqrt{n}$で決まる"ルートレート"という、他の制限下での結果とは質的に異なる変換境界が出現した。
重力が量子力学の法則に従うのかという問題については未だ実験的な検証がなされていない。この点に関連して、2017年にBoseらは位置の重ね合わせ状態にある2つの質量体が重力を介して相互作用することで量子もつれを生成する理論モデルを提案した[1, 2]。量子もつれは古典相互作用では生じ得ない量子的相関であるため、重力を通じて量子もつれが生じることが確認できれば、重力場が量子的性質を持つ直接的な証拠となる。
このような背景のもと、近年ではオプトメカ系(光学的機械共振系)が注目を集めている。これは光共振器と懸架鏡から構成され、光子と鏡の相互作用をにより鏡の量子状態を制御するモデルである。本研究はオプトメカ系を用いた重力誘起量子もつれ生成の検証を目的としている。
従来の研究では特定の条件下における量子もつれのみが解析されていた。これに対し本研究では、より一般的な設定においてより強いもつれが得られる領域の探索とそのメカニズムの解明に取り組んでいる。本発表ではその研究の進捗について報告する。
[1] S. Bose et al., PRL 119, 240401 (2017)
[2] C. Marletto & V. Vedral, PRL 119, 240402 (2017)
分子の電子励起によって生じたエキシトンのフローを利用して量子演算回路を実現できるだろうか。本研究では、量子動力学計算によりエキシトンの流れを利用した量子演算ゲートの可能性について検証した[Yonetani, Chem.Phys. 570, 111860 (2023)]。ハミルトニアンはNOTとHadamardゲートのシステム項と調和振動子の環境項で構成し、スピンーボソン模型で表した。経路積分の半古典解法により時間発展を求め、量子演算フィデリティーを評価した。環境ノイズの中で高いフィデリティーを得るには、大きなエキシトンカップリングが必要となる。例えば、0.98以上のフィデリティーを実現するには、1000cm-1を超えるエキシトンカップリングが必要なことが分かった。温度と再配向エネルギーは小さい方が望ましいが、少し高くても許容される。導かれた結果は、具体的な分子設計を進める上で重要な知見となる。
ペロン・フロベニウスの定理(1907)は,すべての成分が正の行列の最大固有値が縮退していないことを保証する定理である.この定理はファリスによって,ヒルベルト空間上の(ある条件をみたす)有界正自己共役作用素の場合にも拡張されており,下に有界な自己共役作用素の基底状態の一意性を示すなどの応用がある(1972).拡張された定理において,「行列のすべての成分が正」に相当する条件は,自己双対錐,正値保存性,正値改良性,エルゴード性などの概念で記述される.
本発表では,ペロン・フロべニウスの定理の逆問題「最大固有値が縮退していない有界正自己共役作用素は,ある自己双対錐に関して正値保存性,正値改良性,エルゴード性などが言えるか」について発表者が得た結果を説明する.また作用素を摂動させたときにこれらの性質が保たれるかについても説明する.
本発表は,https://arxiv.org/abs/2405.11136 に基づく.
量子ダイナミクスの普遍的な性質を調べるためにランダム行列を用いる方法は、von Neumannにより開闢された。ランダムモデルはどのような量子ダイナミクスを示すかによって分類され、その分類や臨界現象の解析のために、生存確率やFidelityなど様々な準位統計量が提案されている。中でもSpectral Form Factor $\text{SFF}(t)$は2準位相関関数$R_2(\omega):=\langle \sum_{i,j}\delta(\omega-E_i+E_j) \rangle$のFourier変換で定義され、Hamiltonianの固有値同士の反発(以下、準位反発)に対し鋭敏なプローブとなる。
従来あるほとんどランダムモデルでは、現実の量子ダイナミクスの多様さに反して、$\text{SFF}(t)$は高速に熱化するカオス的なふるまいか、可積分系に代表される熱化しない系のふるまいの2つしかとってこなかった。
近年、あるスピングラスの特徴的な緩慢な平衡緩和の背景にあるHilbert空間の構造に触発され、類似の構造をもつランダムモデルが提案された。そのようなGlassyなランダムモデルと、それらの$\text{SFF}(t)$の典型的でないふるまいを紹介する。
一般確率論(General Probabilistic Theories: GPTs)は,古典論や量子論を包含する,操作主義的に最も一般的な確率モデルを扱う理論的枠組みである.この一般性ゆえに,GPTsは量子論の原理的基盤の探究や,情報処理における本質的な特徴の解明に向けた有効な理論的基盤として期待されている.
情報理論において重要な量であるエントロピーは,GPTsの枠組みにおいては異なる側面を捉える3種類の定義($S_1$,$S_2$,$S_3$)が知られている [1][2][3].一方で,情報取得の限界を一般化する手法として,任意のエントロピーから新たなエントロピーを導出する「誘導エントロピー法」が提案されている [4].興味深いことに,二次元正四角形モデルにおいては,誘導エントロピー法によって異なるエントロピー同士の関係が明らかになることが示されている.
本研究では,このようなエントロピー間の関係性がより一般的な構造として成立するかどうかを,正多角形モデルなどの例を通して検討する.
[1] G. Kimura, K. Nuida, H. Imai, Rep. Math. Phys. 66, 175 (2009).
[2] H. Barnum et al., New J. Phys. 12 033024 (2010).
[3] A. J. Short, S. Wehner, New J. Phys. 12 033023 (2010).
[4] G. Kimura, J. Ishiguro, M. Fukui, Phys. Rev. A 94, 042113 (2016).
量子力学において位置と運動量は非可換であるので、異なる時刻の位置は同時に定まらない。量子的な粒子が物理的にどのように伝播するのか、というのは興味深い問題である。
これに関し我々のグループでは、粒子の位置と運動量の両方の制御によって、量子的な粒子の直進性の検証が可能となることを理論的に示した。位置の幅を制限した状態と運動量の幅を制限した状態との重ね合わせ状態の自由粒子の伝播を考える。このとき両者の幅の制御を行うと、慣性の法則から導かれる不等式の破れが見える可能性がある。
近年、小野らにより、弱いコヒーレント光とマッハツェンダー干渉計を用いた実験が行われ、量子論を支持する結果が示された。しかし測定確率や誤差の評価について課題が残されたままである。
そこで我々は二光子発生で生成された一方の光子と、安定なサニャック干渉計によって、実験の高精度化を目指している。その最初の段階として、干渉計の構築、弱いコヒーレント光による状態の生成、および単一光子検出による測定を行った。
重力の量子性の検証に向けて、重力相互作用を介したエンタングルメント生成が注目されている。オプトメカニカル系とは、レーザー光と懸架鏡の結合を通じて高精度に量子系の測定・制御が可能な実験系である。
従来の量子ウィーナーフィルターによる状態推定は、理論的には真の状態と推定値との差の平均二乗誤差を指標としており、これに基づいて条件付き分散が評価される。しかし、実際の実験では真の状態は直接観測できないため、観測された測定量のみを用いて推定精度を評価する新たな手法が求められている。
本研究では、因果的および非因果的な量子ウィーナーフィルター[1]を組み合わせ、測定量のみから推定する方法を用いて条件付き分散を導出し、推定が有効なパラメータ領域を検討する。さらに、この手法を用いて鏡間の重力誘起エンタングルメントの検出可能性についても議論する。
[1]Chao Meng et al. ,Measurement-based preparation of multimode mechanical states.Sci. Adv.8,eabm7585(2022).DOI:10.1126/sciadv.abm7585
暗黒物質は宇宙の約27%を占めるとされる未知の物質であり、これまでにさまざまな理論モデルと、それに基づく検出方法が提案されてきた。しかし、いずれの方法でも明確な検出には至っておらず、どの理論モデルも確かな実験的根拠が乏しいのが現状である。
暗黒物質が未発見である理由は、これらの検出方法が特定の理論モデルに依存していることにある可能性がある。そこで本研究では、すべての暗黒物質に共通する重力相互作用に着目し、モデルに依存しない普遍的な検出手法の構築を目指す。そのために、暗黒物質検出への応用を研究動機として、弱重力場における2準位原子のエネルギー散逸率を定式化するため、原子が従う量子マスター方程式を導出した。
本発表では、当日までに得られた成果について報告する。
無限自由度の環境系を持つ開放量子系では不可逆なデコヒーレンスが生じる。そのダイナミクスを記述する典型的なモデルとして、スピンと環境が結合している純位相緩和型スピンボゾンモデル [1]がある。このモデルは時間に局所的なカノニカル型のマスター方程式[2]
\begin{align}
\frac{d\rho(t)}{dt}=\gamma(t)\Big(\sigma_z \rho(t) \sigma_z -\frac{1}{2} {\sigma_z \sigma_z,\rho(t) }\Big)
\end{align}
で記述される[3]。ここで、$\rho(t)$はスピンの密度演算子、$\sigma_z$は位相フリップを表すパウリ演算子、$\left\{\cdot\right\}$は反交換子を表す。微小時間間隔で完全正値なダイナミクスに分割できるという観点から、$\gamma(t)$が常に正値のときにはマルコフ、負の値もとる場合は非マルコフになるということが知られている[2]。我々は、局所的な相互作用のもとで、環境系の分散が波数$|𝑘|$の冪乗でかける$D$次元の純位相緩和型スピンボゾンモデルを解析した。
本発表では環境の分散のカットオフと非マルコフ性を表す$\gamma(t)$、さらにスピンの固有エネルギー差を推定するFisher情報量との関係を議論する。
[1] G. M. Palma, K.-A. Suominen, A. Ekert, Proc. R. Soc. Lond. A 452, 567 (1996).
[2] Michael J. W. Hall, et al., Phys. Rev. A. 89, 042120 (2014).
[3] Breuer, Heinz-Peter, and Francesco Petruccione. The theory of open quantum systems. OUP Oxford, (2002).
スケーラブルな量子誤り訂正は、大規模量子計算を実現する上で中核的な役割を担う。本発表では、置換行列型の量子 low-density parity-check(LDPC)符号に対し、高ガース構造を導入し、多元の joint belief propagation(BP)復号を適用することで、量子容量の下界であるハッシング限界に迫る誤り訂正性能を実現した結果を報告する。特に、復号計算量を物理量子ビット数に比例させつつ、急峻なフレーム誤り率(FER)曲線と深いエラーフロアの両立に初めて成功した点が特徴である。さらに、より広範な符号レートにおいても、比較的単純な2元の joint BP 復号により急峻な FER 曲線遷移が観測されたことを報告する。エラーフロア領域では、符号構造中のトラッピングセットが支配的な誤り原因となっている可能性が示唆されており、今後の低誤り率領域における符号設計に新たな指針を与えると期待される。これらの成果は、スケーラビリティと高性能を兼ね備えた量子誤り訂正符号の構築に向けた、一つの有望な可能性を示すものである。
量子論において,測定の両立不可能性を定量的に評価する指標の一つに,Heinosaariらによって提案された同時測定不可能性次元(Incompatibility Dimension,以下ID)がある[1].これは,複数の測定が同時には実行できないことを判定するために必要な状態の“個数”を表す量とみなすことができる.[1]では,ノイジーなPauli $X,Z$測定における同時測定不可能性に着目し,IDが非連続的に変化するノイズ閾値の存在を示しているが,その具体的な値は未だ定まっていない.IDの定義自体は自然に思えるものの,その閾値を決定づける状態集合の構造は直感的に捉えにくく,量子ビットに限った場合でさえ,問題は単純ではないことが示唆されている.
本研究の目的は,このノイズ閾値を解析的に導出するとともに,同時測定不可能性に対する直感的理解を深めることにある.そのために我々は,問題をより一般的な枠組みである一般確率論(General Probabilistic Theories,以下GPTs)へと拡張する.GPTsは,量子論や古典論を包含する一般的な理論体系であり,本問題をこの枠組みの下で定式化することで,同時測定不可能性の本質的理解に迫りつつ,GPTsにおけるノイズ閾値の導出を目指す.具体的には,GPTsにおける測定に対するIDの概念の導入,二次元正多角形モデルにおける(ノイジーな)$X,Z$測定の拡張,および古典・量子・正四角形モデルを中心とした各種モデルにおけるノイズ閾値の導出を行う.
[1] T. Heinosaari, T. Miyadera, and R. Takakura, Phys. Rev. A $\textbf{104}$, 032228 (2021).
環境と相互作用する量子系の散逸的な振る舞いは、開放量子系の本質的な特徴である。その理論モデルの一つに、量子調和振動子からなる系と、その集合で構成される環境が相互作用するCaldeira–Leggettモデル[1]があり、そのダイナミクスは量子ランジュバン方程式(QLE)によって記述される。QLEの解析では通常、系が無限時間にわたり環境と結合していると仮定されるため、時間依存結合を持つQLEの厳密解は未解明である。本発表では、この課題に対し、有限時間相互作用をディラックのデルタ関数型の相互作用列で再現する手法[2]を用いることで、一般的な時間依存結合を持つQLEの解析解が得られることを示す。さらに、このアプローチにより可視化が可能となった環境のメモリー効果の振る舞いについて紹介し、無限時間相互作用モデルとの比較を通じて解の妥当性を検証する。
[1] A. O. Caldeira and A. J. Leggett, ”Influence of Dissipation on Quantum Tunneling in Macroscopic Systems”, Phys. Rev. Lett. 46, 211 (1981)
[2] J. P-Gomez, E. M-Martinez, “Nonperturbative method for particle detectors with continuous interaction” Phys. Rev. D 109, 045014(2024)
.ハイゼンベルクは1927年、正準共役な2つの物理量は同時に正確に測定できないことを示し、有名な不等式でその誤差の限界を表した。しかし当時の測定理論では、正確な測定により波動関数が完全に収縮すると仮定されており、この不等式はすべての測定で成り立つわけではなかった。実際、干渉計型重力波検出装置の感度限界を表す「標準量子限界」がハイゼンベルクの不等式から導かれたが、後に、可解な相互作用を持つ間接測定モデルにより破れることが示された。ハイゼンベルクの不等式を普遍妥当性のある新しい不等式に改めるためには、物理的に実現可能なすべての測定を特徴づける数学理論、正しい測定の状態依存的特徴づけ、測定誤差の定義の公理的特徴付けなどの理論的整備が必要であったが、現在、それらの問題はほぼ解決され、いくつかの実験で実証されている。また、最近、正しい測定の特徴づけから、測定値の間主観的一致性が導かれ、現行の解釈を見直す必要性が明らかとなった。本講演では、このような量子測定理論の発展について概説する
量子力学の適用範囲は応用も含め多岐にわたっている.また、量子力学の予測が高精度に正しいことは多くに実験で立証されたきた。ところが、量子力学の予測が確率的であること、直感では理解しがたい現象などが、多くの物理学者をも惑わし続けている。特に、量子系で何が起こっているかといった、量子系のダイナミックスに関してはいまだに統一的な見解があるとは言い難い。この講演では、粒子としてイメージしやすい中性子を使った光学実験を紹介する。中性子の干渉とスピンを用いた実験を通して、波動と量子の二重性、あるいは実在性、局所性や因果律などといった量子力学独特のミスティーに挑戦する。特に、不確定性関係に関する最近の動向および不思議の国のアリスに出てくる猫にちなんで名づけられた、「量子チェシャ猫」と呼ばれる、マッハ・ツェンダー干渉計内で中性子とそのスピンがそれぞれのパスで透明化あるいは分離する実験を紹介する。
Isolated quantum systems are described by Hermitian Hamiltonians. However, when they are open to surrounding environments or subject to quantum measurements, one should go beyond the Hermitian framework. Beyond-Hermitian physics has recently attracted a great deal of attention due to remarkable advances in experimental techniques and theoretical methods in AMO, condensed matter and nonequilibrium statistical physics. Complete knowledge about quantum jumps allows a description of quantum dynamics at the single-trajectory level. A subclass thereof without quantum jumps can be described by a non-Hermitian Hamiltonian. Here, symmetry, topology and many-body effects are fundamentally altered from Hermitian physics. In this talk, I will discuss what new potentials can be liberated once we go beyond the Hermitian framework. I will illustrate them in the context of the quantum speed limit, intermediate-state engineering, continuous quantum phase transitions and non-Hermitian topological phases. I will also discuss applications of beyond-Hermitian quantum physics to statistical physics and condensed matter physics, such as Yang-Lee zeros, nonunitary critical phenomena and non-Hermitian BCS superconductivity.
量子技術の急速な発展とともに,量子系の精密な制御が可能となっている.様々な機能発現の設計には,熱浴や電子溜のみならず,量子系を取り巻く環境世界との不可避的な相互作用を考慮する必要がある.これを可能にするのが,量子開放系(外部とのエネルギー・粒子のやりとりを考慮する系)の取り扱いである.本講演では,量子マスター方程式を用いた量子開放系の記述に焦点を絞り,特に短時間領域の振る舞い(非マルコフ効果)が量子情報・量子熱力学などで果たす役割にについて述べる.
近年,量子情報科学において,数式に代わる表現手法として「図式表現」が注目を集めつつある。図式は,数式と同様に厳密な表現や式変形が可能であると同時に,しばしばより視覚的で理解しやすいという利点を持つ。本講演では、量子論における図式の基礎を紹介するとともに,図式を活用した研究事例を紹介する。
マクロ世界では,量子論とはまるで異なるマクロ法則が成り立っている.なぜ量子論からそのような法則が出現するのだろうか? このミクロ法則とマクロ法則の乖離の問題は,古典力学の時代から議論されてきた大問題であるが,量子力学の誕生により,新たな光があてられて続けている.
発表者らが最初にこの問題に取りくんだのは,伝導体の非平衡ゆらぎが,メゾスコピック伝導体とマクロ伝導体では,定性的にもまったく異なる振る舞いを示す原因が.decoherenceではなくdissipationであることを示したことであった[1].decoherence だけでは,マクロな世界には移行しないのである.さらに,安定性がマクロ系の波動関数を決めることを見いだし[2,3],それを一般化して普遍的な結果を導いた[4].また,マクロに異なる重ね合わせ状態を見つけるための一般的な指標を提唱し[4,5],それが,量子計算機や量子センサーの性能と結びついていることを指摘した[6,7,8],さらに,マクロ系の測定理論により,長年の懸案だった非平衡量子統計力学の基本的問題に解答と修正を与えた[9-11].最近では,熱力学・統計力学と量子論との整合性の問題を,さらに深掘りしつつある[12-15].本講演では,その最新の結果[15]を報告する.
平衡状態は,指数関数的に多数の状態が混合されているGibbs状態には限られず,たとえば一つの純粋状態でも平衡状態でありうる,という事実は広く知られつつある.しかしこの事実は,Gibbs状態を用いたこれまでの第二法則の証明を破綻させるので,量子論と熱力学の整合性の新たな問題を突きつけており,未だに未解決である.我々は,この問題に真正面から取り組んだ.まず,「マクロ変数」と「マクロな精度」の定義を明確化し,それを用いて「マクロに等価な状態」の概念を導入した.そして,熱力学・統計力学において,平衡状態の定義が文献によってばらついている問題を,この等価性を用いて再定義することで解決し,この定義から外れる多くの定義では熱力学第二法則と矛盾することを指摘した.さらに,「マクロな操作」も明確に定義し,第二法則が成り立つかどうかを調べた.その結果,系の体積と無関係な時間スケールまでは常に第二法則が成り立つが,それより長い時間スケールでは、破綻する場合があることが証明できた.
上記の結果が,今後の課題として突きつけるのは,長い時間スケールでも第二法則が満たされるという経験事実が成り立つ理由は何か,である.上記の厳密な結果は,操作的には,次のことを想定したことになる:(i) 平衡状態の量子状態を完全に知っている,(ii) 我々が明確に定義した「マクロな操作」の実行が完全である.我々は,これらの「完全さ」のいずれか(あるいは両方)がマクロ系の実験では満たされないことが,量子論と熱力学の整合性をもたらす最後のピースの有力候補ではないかと考えている.今後のさらなる研究の進展が待たれる.
[1] AS and M. Ueda, PRL69, 1403 (1992). [2] AS and T. Miyadera, PRL85 (2000) 688. [3] AS and T. Miyadera, PRE64 (2001) 056121. [4] AS and T. Miyadera, PRL89 (2002) 270403. [5] AS and T. Morimae, PRL95 (2005) 090401. [6] A. Ukena and AS, PRA69 (2004) 022301. [7] AS, Y. Matsuzaki and A. Ukena, JPSJ82 (2013) 054801. [8] M. Tatsuta, Y. Matsuzaki, A.Shimizu, PRA 100, 032318 (2019). [9] K. Fujikura and AS, PRL117, 010402 (2016). [10] AS and K. Fujikura, J. Stat. Mech. (2017) 024004. [11] K. Kubo, K. Asano and AS, JPSJ91, 024004 (2022). [12] Y. Chiba, K.Asano, AS, PRL124, 110609 (2020). [13] Y. Yoneta and AS, J. Stat. Mech. (2023) 053106. [14] Y. Chiba and AS, PRR5, 033037 (2023). [15] Y. Chiba, Y. Yoneta, R. Hamazaki and AS, in preparation.
近年の実験技術の向上により、一分子・一原子レベルでの精密な測定・操作が可能になった。1990年代以降、このような熱ゆらぎや量子効果が無視できないようなミクロな領域へと熱力学が拡張され、ゆらぎの熱力学や量子熱力学と呼ばれる分野が進展している。さらに、情報熱力学と呼ばれる分野では、測定やフィードバックなどの情報処理過程における情報量と熱力学量の関係が明らかになった。熱力学第二法則が与えるエネルギーコストの最小値を達成するためには操作を無限にゆっくりと行う必要がある一方、実用上は素早い操作が必要であり、有限時間における熱力学的最適化の研究がここ10年程度で活発に行われている。特に、エネルギーコストと操作速度やカレントの精度の間のトレードオフ関係が、熱力学的速度限界や熱力学的不確定性関係などによって定式化された。
本発表では、熱力学の法則が量子効果によってどのように修正されるのか、また量子計算の分野などで見られる量子優位性が熱力学でも成立するのか、という問いに対して考察する。より具体的には、量子重ね合わせをうまく活用すると、エネルギーコストを下げつつ高速操作が可能になることを、量子効果を取り入れて導出した熱力学的トレードオフ関係の観点から議論する。さらに、量子開放系の対称性に基づいた理論的枠組を導入することで、どの程度まで量子効果による優位性が得られうるのかを与える。得られた理論を熱機関へと応用すると、(古典力学的な熱機関では不可能とされている)ゼロでない仕事率を発揮しつつ、理想効率であるカルノー効率に近い効率で動作する量子熱機関が量子効果によって可能となることを説明する。
また時間が許せば、フィードバック冷却における冷却効率を与える情報熱力学的な第二法則やトレードオフ関係に関する結果も紹介する。
本講演では、量子物理学の歴史における1925年の意義を再検討する。1925年は、W. ハイゼンベルク(Werner Heisenberg)の「運動学的および力学的関係の量子論的再解釈」(Über quantentheoretische Umdeutung kinematischer und mechanischer Beziehungen)論文の発表により、2025年が量子力学成立100周年として記念され、国際連合も「国際量子科学技術年」に指定した年である。また、同年には行列力学を定式化したM. ボルン(Max Born)とP. ヨルダン(Pascual Jordan)による「量子力学に関する論文」や、G. ウーレンベック(George Uhlenbeck)とS. ハウトスミット(Samuel Goudsmit)による電子スピン概念の提唱もあり、1925年を量子物理学史上きわめて重要な節目とみなせることは間違いない。
しかし、量子力学はこの年に突然生まれたわけでも、この年で完成したわけでもない。本講演では、より長期的な科学史的文脈をたどりつつ、日本の物理学界の動向も視野に入れ、1925年をどのように位置づけ直せるかを考察し、世界的な量子物理学の新たな歴史叙述の枠組みを探る。
本講演では、これまでの量子暗号のセキュリティ理論の研究の中で、筆者が量子力学の面白さを感じた事例をいくつか紹介したい。量子力学はいろいろと興味深い性質を持っているが、さらに面白いのは、そのいろいろな性質が裏でつながっている点にある。量子力学を規定する基本ルールはとても単純なので、そのつながりはある意味で当然のことかもしれない。量子暗号の理論は、そんな高尚な話ではなくて、いかに安い装置で効率よくセキュアな暗号通信を行えるか、という、言ってみれば下世話な動機に基づく研究である。しかし、量子力学のそんな性質のおかげで、量子暗号とは直接には関係しないトピックとの意外な関連があったり、あるいは、そういったつながりを積極的に利用して、寄せ手絡め手から問題を解決しようとしたりするので、ときに、量子力学の真髄を垣間見た気分になる。そんな感慨を少しでもお伝え出来たら幸いである。
量子力学は、ベル不等式に代表されるように、日常的な直観に反するような概念をその基礎に含んでおり、解釈をめぐって多くの深い議論が行われてきた。20世紀の終わり近くに、このような量子力学の不思議な原理を直接利用することにより、従来よりも優れた情報技術を実現できることが理論的に示され、量子技術に関する研究が活発に行われるようになった。現在では、我が国でも、経済成長や我々の安心で豊かな生活に直接貢献するという期待から、多くの研究開発資金が投入されている。そのような量子技術の中で、最も応用に近いと考えられ、早期の実用化が期待されてきたのが量子暗号である。量子暗号は、どんなに高度な技術を有する盗聴者に対しても安全な通信を実現できる技術であり、従来の技術の場合は解くのに時間が掛かるという計算量的な安全性しか実現できないのに対し、質的に優れた安全性を可能にする。その期待に応えるように、実験及び理論研究が急速に進展しており、製品化も実現されている。しかし、一方で、米国国家安全保障局(NSA)等の機関から量子暗号の実利用に対する懸念も表明されており、順風満帆に実用化が進むという状況ではない。本講演では、このような量子暗号の現状を、私達が取り組んでいる連続量量子鍵配送やエンタングルメント生成も含めてご紹介したい。
「三つの量子論」、「二つの(hのある、hのない)量子力学」そして「ボーアとアインシュタイン」について語る。
量子力学から古典力学を導こうとする試みはこれまでにも多数あるが、私は、InonuとWignerの群表現の縮約方法を拡張して、非可換代数の表現にある種の限定と極限操作を施すことによって別の代数を構成し再びその代数を表現しなおす再代数化(re-algebrization)という方法を考案した。この方法を量子系の正準交換代数に適用して、古典系のポアソン代数を導くことを提案する。さらに代数的量子論の状態概念を適用することにより、確率解釈(統計解釈)が自然に導かれることを示す。
量子論における不確定性の研究は、この一世紀ほどの間に様々な深化や精密化の姿を見せ、また多彩な様相を呈するようにもなった。本講演では、量子論における不確定性の三つの典型的様式である量子ゆらぎ、測定精度、および観測効果の関係を概観し、これらの代償関係を誘起するところの普遍的構造を吟味することで、不確定性原理の統一的な定式化の可能性を探る。とりわけ、現代的な量子測定理論や量子情報理論における標準的な前提に照らした不確定性原理の普遍性に触れ、また量子論の不可能定理におけるその含意を再訪する。
一般に魔法状態蒸留において,$[[n,k,d]]$符号を用いた際の蒸留効率は$\gamma=\log_d (n/k)$で表現され,$\gamma$が小さいほど効率的なプロトコルであることが知られている.一方で漸近的な蒸留シナリオにおけるレートと$\gamma$の関係は断片的にしか知られていなかった.本研究では一般化されたMEKプロトコルを用いて、$\gamma$の値が良くない場合でも漸近領域で任意のサブリニアレートを実現できる魔法状態蒸留プロトコルの存在を証明する.具体的には,良いレートを実現できる量子誤り訂正符号族を構成し,このプロトコルが成功する確率がゼロでないことを示す.本プロトコルは蒸留後状態のエラー率$\varepsilon_{targ}= 10^{-1700}$までの領域において,現時点で発表されているリニアレートのプロトコルよりも効率的であることを示す.
量子論において複数の操作を同時に行えないという性質をincompatibility(両立不可能性)といい、同時測定不可能性やNo-cloning定理などの性質を統一的に記述する。近年、incompatibilityは量子情報処理におけるリソースとして注目されており、incompatibilityの「強さ」を特徴づけることが求められている。本研究では、「利用可能な状態が制限された状況下でのincompatibilityの検知可能性」という操作的な観点に基づきincompatibilityの「強さ」を比較する前順序を導入する。具体例としてunbiased qubit observableと呼ばれるノイジーなパウリ測定の組を取り上げ、この前順序がincompatibilityの強さについてこれまで識別できなかった階層を与えることを数値的に示した。また、unbiased qubit observableの組について、この前順序から導かれる同値関係の成立条件についても調べた。
周期的に測定を変化させることで論理量子ビットを動的に生成・操作できるFloquet codeを含む表面符号のエラー復号器として、画像生成で注目されている拡散モデルを適用した。拡散モデルはノイズを加えて分布を拡散させ、逆過程で元の分布を推定する仕組みを持つが、この仕組みをエラー復号に応用し、エラーの蓄積過程を拡散過程とし、逆にエラーの復号を逆拡散過程として捉え、物理量子ビットの誤りパターンを生成的にサンプリングしながら復号を行う。従来広く用いられてきたMinimum-Weight Perfect Matching(MWPM)のようなグラフアルゴリズムと異なり、多様なノイズモデルやコード構造に柔軟に対応できる可能性がある。本研究では、様々なエラーモデルに対してシミュレーションすることで、その有効性について検証する。
非エルミート表皮効果は非正規演算子に特有の固有ベクトル局在現象である。量子系においては散逸や測定の下での連続時間発展の生成演算子が一般に非正規であり、生成演算子の非エルミート表皮効果とダイナミクスとの関係に興味がもたれている。非エルミート表皮効果は一粒子系ではよく理解されているが、一般の系における定式化は未解明な部分が多い。本研究では、量子多体系やネットワーク系を含む一般の有限次元系に対して適用可能な非エルミート表皮効果の規準を提案する。さらに、この規準の下で固有ベクトルの非直交性の指標である条件数という量を下から評価する。時間発展演算子のノルムは生成演算子の条件数を用いて評価できる。このため、条件数を媒介することで、非エルミート表皮効果と開放量子系のダイナミクスの過渡的性質との関係を一般的に議論することが可能になる。
We will discuss a geometric counterpart of the Bell’s inequaliti(es) in holography.
量子論を拡張する方法として,操作論的な概念を残した一般確率論(GPTs)と,それに包含されるが,量子論の代数的構造を拡張して代数的に抽象化して得られるEJAs(Euclidean Jordan algebras)といったものがある.
一般確率論の中の特殊な代数的なモデルの集合として,EJAsが含まれている.EJAsの中では,GPTsにおける二つの欠点を克服している,まず,GPTsは最大テンソル積と最小テンソル積に挟まれる任意のテンソル積を許すというconeのテンソル積の不定性が存在する.一方,これに対して,系のconeのテンソル積がEJAsの代数構造により標準的に定めることができるということがある.また,二つ目として,スペクトル分解が存在しないことが挙げられる.一方,EJAsの性質により,スペクトル分解がユニークに存在するということである.このような条件の下では,相対エントロピーなどの量子情報量をEJAsに拡張し,EJAs上で量子情報理論のトピックを情報理論的に解析することが可能である.特に今回はEJAsのすべてのモデルに対して,これらの性質により,実際にGPTsの中で特に仮説検定という統計的な枠組みのなかで量子情報理論でよく知られた量子Steinの補題をEJAs上に拡張した.
本研究では、LHC-ATLAS実験におけるB0・反B0中間子対のフレーバー相関の測定により、ベルの不等式の破れを検証する。これは世界で初めて測定の局所性条件を担保した上での中間子フレーバーについてのベル不等式の検証となる。LHC Run-2時に取得したデータを用いた解析に向けて、感度向上のためにより低い運動量を持つ飛跡情報を用いた一連の生成粒子の再構成手法を新たに開発し、事象選別条件の最適化を行なった。本ポスター発表では、系統誤差評価を含めた本解析手法の性能評価、並びにベル不等式の検証感度評価について報告する。
To understand the emergence of macroscopic irreversibility from microscopic reversible dynamics, the idea of coarse-graining plays a fundamental role. In this work, we focus on the concept of macroscopic states, i.e. coarse representations of microscopic details, defined as states that can be inferred solely from the outcomes of macroscopic measurements. Building on the theories of quantum statistical sufficiency and quantum Bayesian retrodiction, we characterize macroscopic states through several equivalent formulations, ranging from algebraic to explicitly constructive. We introduce a hierarchy of macroscopicity-non-decreasing operations and develop a resource theory of microscopicity that unifies and generalizes existing resource theories of coherence, athermality, nonuniformity, and asymmetry. Finally, we introduce the concept of inferential reference frames and reinterpret macroscopic entropy as a measure of inferential asymmetry, i.e., irretrodictability. This perspective clarifies how specific quantum features are either preserved or lost depending on the observer’s reference frame. Applying this framework, we examine locally microscopic correlation and establish the necessary and sufficient conditions for it to vanish in terms of information recoverability.
Bell-CHSH不等式を破る量子相関は,測定独立な局所隠れ変数理論によって説明できないことが知られている.しかし,この不等式の破れは,隠れ変数の存在・局所性・測定独立性という仮定のうち,どれがどの程度破れているかを定量的に示すものではない.そこで2023年我々は,測定独立性の破れと隠れ変数の存在に関する定量的尺度を導入し,それらの値と再現可能なCHSH値とのトレードオフ関係(緩和ベル不等式)を示した.ただし,この先行研究では隠れ変数の局所性(分解可能性)のみを仮定し,経験分布のNo-Signaling条件を考慮していないため,タイトな関係とはなっていない.本研究ではこの点に着目し,No-Signaling条件下でのトレードオフ関係の再検討を行う.その結果,一部の領域において,測定独立性が破れるほど再現可能な相関が小さくなるという,直感に反する振る舞いを発見した.
J. S. Bell, Physics 1, 195 (1964).
G. Kimura, Y. Susuki, and K. Morisue, Phys. Rev. A. 108, 022214 (2023).
量子コンピュータ上で指数関数的に小さい空間を用いて大規模な古典系をシミュレートする研究が注目を集めている。先行研究では、長距離相互作用を持つ古典系のシミュレーションにおいて、指数関数的な量子加速が示された。しかし、多くの現実世界の古典系、例えば偏微分方程式に由来する系などは、局所的な相互作用しか持たない。このような条件下でも量子アルゴリズムが指数関数的な優位性を持てるのかという疑問が残る。本研究では、この問題に答えるため、以下3つの主要な結果を示す。第一に、このような古典系の短時間(多項式時間)発展を効率的にシミュレートする脱量子化アルゴリズムを与える。これは、短時間発展では指数関数的な量子優位性が得られないことを意味する。第二に、短時間発展をシミュレートする量子アルゴリズムの計算複雑性が、多項式時間の確率的古典計算と同等であることを示す。第三に、長時間(指数時間)のダイナミクスにおいては、その計算複雑性が指数時間かつ多項式空間の量子計算と等価であることを示す。この結果は、長時間発展において空間計算量の観点から指数関数的な優位性があることを保証する。
本研究[1]では,Robertson–Schrödingerによって定式化された不確定性関係を一般化し,新たな下限項を導入した関係を提示する.この新たな不確定性関係は,近年我々が導入した,量子状態で重み付けされた交換子ノルムの不等式[2]を応用することで導出される.追加された下限項は2つの物理量の交換子によって定まり,Robertson項による従来の寄与に加え,それとは異なる量子的な起源を持つことが示される.さらにこの項は密度行列のスペクトル構造を明示的に含むため,有限次元系において状態の混合度が高くなるほど顕著に現れる項となっている.加えて,2準位系においては,提示する不確定性関係は常に等号を満たし,不確定性のトレードオフ関係を完全に特徴付ける.本研究の結果は,従来の不等式では捉えきれなかった非可換性に起因する寄与を明らかにし,不確定性関係の基礎理解に新たな視点を与える.\
[1] G. Kimura, A. Mayumi, H. Ohno, J. Lee, and D. Chruściński, arXiv:2504.20404 (2025).
[2] A. Mayumi, G. Kimura, H. Ohno, and D. Chruściński, Phys. Rev. A 110, 062215 (2024).
高次元時空における物理理論は4つの基本的な相互作用を統一的に議論するための有望なアイデアである。我々の観測可能な世界は実質的に4次元なので、余剰次元をコンパクト化した高次元ブラックホール解が盛んに議論されている。5次元squashed Kaluza-Kleinブラックホール解では、余剰次元のコンパクト化が無限遠で起こり、実効的に4次元時空が得られるため、この解を現実的な高次元ブラックホールモデルの1つとみなすことができる。そこで、squashed Kaluza-Kleinブラックホールからのホーキング放射をトンネル効果に基づいて議論した。地平線近傍での次元縮約によって得られる2次元有効計量を背景時空として用いることで、予想されるホーキング温度と放射に伴う反作用の効果の両方を導出した[1]。さらに、このブラックホールからの荷電スカラー粒子のホーキング放射を、測定可能な最小の長さを予言する一般化不確定性原理に基づく現象論的量子重力効果を含めて議論した[2]。
[1] K. Matsuno and K. Umetsu, Phys. Rev. D 83, 064016 (2011).
[2] K. Matsuno, Class. Quant. Grav. 39, no.7, 075022 (2022).
Trotter分解は量子計算において量子ダイナミクスを効率よくシミュレートする最も基本的な手法である。近年、Trotter分解の誤差に対して交換子スケーリングという普遍的な性質が明らかになり、Trotter分解が系サイズに関して良いスケーリングのコストを持つことが示された。しかし、その解析は全ての可能な初期状態に対して最悪な誤差に基づくものであり、低エネルギー状態など実際の計算で興味のある初期状態に対しては誤差と計算コストを過剰に評価するものとなっている。本研究では、初期状態が低エネルギー状態であるときTrotter分解におけるアルゴリズム誤差が本質的に減少し、それに伴い計算コストもスケーリングレベルで改善されることを証明した。特に我々の結果は理論上さらにスケーリングを改善できない最適なものとなっており、本発表ではそれらの結果について説明する。
量子固有値変換は様々な量子アルゴリズムを高効率に実行できることから将来の量子計算機での実行が期待されている。一方、多数の補助量子ビットや多重制御ゲートが必要となるため近い将来での実行は困難であると考えられている。近年提案されたTrotter法を用いた量子固有値変換はこれらの課題を克服しつつ従来と同等の計算タスクを実行可能であり、初期の量子計算機における実装が期待されています。しかしTrotter分解による誤差が計算の過程でどのように蓄積されるか、またどのようなTrotter分解等のパラメーターを用いて回路を構成すればよいかについては十分に理解されていない。本発表では古典数値計算によるシミュレーションを行いTrotter分解に伴う誤差が計算過程でどのように蓄積されるか、またパラメーターによって誤差にどのような影響を与えるかについて調べた研究について発表する。また、さらに得られた結果をもとに実際の量子計算に必要な計算コストの見直しを提案する。
量子測定は一般に、測定対象の量子状態に擾乱を与える。しかしながら、特定の条件を満たす測定においては、その擾乱を確率的に逆転し、元の量子状態を回復することが可能であることが知られている。さらに、こうした可逆的測定に限らず、他にも特殊な回復が可能な例が発見されており、これらはより一般的な回復過程の存在を示唆している。これらの過程に共通する特徴は、測定結果を記録したメモリの情報が消去されるという点である。本研究では、この「メモリの情報の消去」に着目し、情報消去を引き起こすような一般の操作について検討する。さらに、メモリを環境とみなすことで、システムの情報保護という観点から、一般的な量子誤り訂正との関連も議論する。以上により、量子情報の保持と制御に関する新たな視点を提供することを目指す。
量子もつれを遠隔地点へ配送する量子通信は、将来の量子インターネットの中核技術として期待されている。その長距離化には量子中継の導入が不可欠であり、これは量子もつれの生成・保持・接続といった複数の物理的操作に基づく複合的なシステムで構成される。本研究では、モデルベース・システムズ・エンジニアリングの手法に基づき、Matlab/Simulink上に量子もつれ配送システムの統合的なシミュレーション環境を構築した。現在は2地点間のもつれ生成を対象としているが、将来的な量子中継機能の実装も視野に入れて開発を進めている。さらに、本モデルはリアルタイム・ハードウェア・シミュレータと連携させることで、ハードウェア・イン・ザ・ループ型の実験環境への展開が可能であり、量子通信の社会実装を見据えたテストベッドの基盤としての活用を目指している。
物理的に実装可能な量子測定のクラスを明らかにすることは基礎的にも応用的にも重要な問題である。POVM(正値演算子値測度)測定は間接測定によって実装可能であり、ヒルベルト空間の数学的構造によって決まる最大のクラスである。しかし、ヒルベルト空間の構造ではなく、確率論的整合性を第一原理として仮定すれば、一般確率論の枠組みとして、非正値演算子値測度(N-POVM)測定を扱うことができる。N-POVM測定は量子論では記述できないため、物理的に実装可能であるとは考えられていなかった。本論文では、量子論において対象となる状態の定義域を限定した場合に、POVM測定と事後選択によってN-POVM測定を実装する構成的な方法を与える。また逆に、事後選択されたPOVM測定は、限定された定義域ではN-POVM測定とみなされることを示す。これらの結果は、一般確率論におけるN-POVM測定と事後選択との間に新しい関係を与え、一般確率論の物理的意味に新たな視点を与える。
量子力学誕生以来、大きな謎の一つとして議論されてきたのが単一光子の干渉現象である。この現象を理解するために数多くの研究がなされてきたが、光路の測定と干渉縞の測定とのトレードオフが最大の問題であった。しかし近年の研究では、光路に対して2準位系のプローブと弱く結合させることで、干渉パターンをほぼ壊さずに光路の情報を測定で得られることが分かってきた。例として中性子干渉計を用いた実験では、干渉計内部で1個の中性子が2つの経路で非局在することが示されている。
そこで本研究では、光干渉計内の二つの光路上でそれぞれ逆方向の偏光と弱く結合させた後に出力された単一光子の偏光を測定した。この方法は干渉をほぼ崩さずに、光路の観点から干渉計内部の物理現象の観測を可能にする。その結果、単一光子は二つの光路上で非局在や超局在を示すことが明らかとなった。
スペクトルギャップのある基底状態に対する近似基底状態射影(AGSP)の一つの構成法として、ハミルトニアンの多項式を用いる方法がある。しかし、ハミルトニアンのノルムが大きいと、無限系に特有の技術的困難が生じたり、多項式近似の計算効率が悪化したりする。 そこで、ノルムの小さい代替ハミルトニアンを導入するという有効ハミルトニアンのアイデアが用いられる。有効ハミルトニアンは、注目する平衡状態に対してエネルギー的に遠い領域の寄与をカットオフすることで定義される。 本研究では、元のハミルトニアンと有効ハミルトニアンのスペクトルが、平衡状態近傍においてほとんど変化しないことを厳密に証明する。特に、スペクトルギャップを持つ基底状態が、有効ハミルトニアンにおいてもスペクトルギャップ付き基底状態として保存されることを示す。
情報幾何は、パラメトライズされた確率分布族から構成された統計多様体に非Riemann幾何学的構造(Fisher計量とα接続)を導入し、主として統計的推論や機械学習の分析のための強力な枠組みである。我々は、情報幾何における勾配流を、解析力学、幾何光学、熱力学、Weyl幾何など、物理学の様々な分野と関連付けながら、様々な観点から研究してきた。特に、一般相対論的な枠組みにおいて、情報幾何の勾配流がWeylのゲージ対称性を持つことを明らかした。情報幾何と修正重力理論とは、計量と接続が独立している (Palatini形式として) 非Riemann幾何学に基づいているという共通点がある。
情報幾何の量子版を目指して量子情報幾何と呼ばれる試みもあるが、ここではそれとはまったく別の観点から、情報幾何と量子とを結びつける試みを紹介する。具体的には、情報幾何における平坦構造での勾配流が満たす方程式が、反転調和振動子の満たす方程式と同じであることから、量子反転調和振動子を通じた情報幾何と重力と量子との関連を探る。
両立不可能性(incompatibility)は,不確定性原理から示唆される非可換な2つの物理量に対する同時測定不可能性などに関連し,量子基礎において重要な概念とされてきた.本研究では,状態,測定,操作の両立不可能性を状態依存交換子によって特徴付け,量子二乗平均平方根測度及びダイヤモンド距離により定量化する新たな手法を提案する.そして,本提案手法によって定量化さてた両立不可能性が不確定性原理とどのような関係にあるのか議論する.
本研究では、視覚課題中のマウス脳スパイクデータに対して、非定常かつ非平衡な因果ダイナミクスを解析するため、状態空間キネティック・イジングモデルを新たに構築した。このモデルは、複数の単一神経活動の時系列から時変結合パラメータと外場をベイズ的に推定し、エントロピー生成に関わる「エントロピー流(bath entropy flow)」を平均場近似により定量化する。実データへの応用では、課題に積極的に取り組んだ条件下で、神経活動の平均は低下する一方、因果結合の変動性や非対称性が高まり、それが一部の高頻度発火ニューロンにおけるエントロピー流の増加をもたらすことが示された。これにより、スパースな活動かつ、選択的な情報処理が非対称的かつ非平衡な形で進行していることが示唆される。本手法は、観測に基づく因果構造の復元と時間の矢の推定により、脳の熱力学的・情報論的構造を理解する上で有用である。
本研究は古典系を前提とし、動物の認知活動に関与する神経細胞集団が示す非平衡・非定常状態を定量化した。この視点は、系が外界を観測する過程における情報変化や時間の非対称性に関心を持つ研究者にとって、観測行為の物理的含意を再考するうえで、何らかの接点となることを期待している。
量子力学誕生から100年を迎えた2025年現在においても、不確定性原理に象徴される量子測定限界の実験と理論の両面での精密検証は重要な課題である。本発表では、ガウス波束基底を用いた連続量(位置・運動量)測定モデルを構築し、李・筒井形式と呼ばれる操作的・普遍的な不確定性関係の定式化を適用することで、測定誤差の積が伝統的な不確定性原理の下限と厳密に一致することを示した尾田欣也氏との結果を紹介する。最後に、今後の展望として、本研究同様のアプローチを時間とエネルギーや Bell‑CHSH 不等式へ適用する試みについて述べる。
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様々な物理現象において、相関関数は重要な指標となる。ところが、量子論における相関関数の定義には、物理量の同時測定不可能性に起因した任意性の存在が知られる。本研究では、測定(過程)によって定まる操作的相関と、物理量の代数的な要請を反映した代数的相関との間の関係について調べ、物理量の非可換性や測定による擾乱の指標等を用いることで、これらの差を評価した。特に、擬確率/量子化双対構造に基づくことで、「期待値」としての操作的・代数的相関の差のみならず、その背後に存在する(擬)確率分布の間の差について、これらの定量的な評価を上下から与えた。
また、本結果の応用として、単一系の時間相関に関する Leggett‒Garg 不等式の観点から、量子論における実在性の破れを解析した。とりわけ、標準的な議論における(逐次的な射影測定による)操作的相関と並んで、弱値・弱測定によって得られる操作的相関も論じ、これらが整合的な結果を与える構造も明らかにした。
ボルツマンの公式 $S=\log W$ はいくつかの量子スピン系において厳密に成り立つことが知られているが,実際には各スピンが有界作用素や行列で与えられるような状況,すなわち量子有界スピン系上での解析が前提となっていた.本研究ではこのような有界性の条件を緩和し,一般に非有界なスピンを持つ系においても同様の主張が成り立つことを示す.具体例としては量子調和振動子の場やボースハバード模型を含む.
量子情報の考え方は、量子多体系のミクロな構造と重力時空の幾何学とを直接結びつける基本的な枠組みをもたらす。例えば、ホログラフィー原理(AdS/CFT対応など)において、場の量子論のエンタングルメントエントロピーは、重力理論の時空の極小曲面の面積から計算できる。これは、ブラックホールのエントロピーを一般化するもので、重力時空自体が何らかの量子計算機のような機能を持っている可能性を示唆している。最近では、このようなエントロピーと重力理論の対応はさらに大きく発展しており、ブラックホールの情報問題の解明、膨張宇宙やワームホール時空におけるホログラフィー原理の可能性にまで広がってきている。本講演では、このようなテーマについて基礎的な考え方から始めて、最新の知見まで概説したい。
宇宙の構造や宇宙背景放射の温度揺らぎを量子揺らぎから説明することに成功したインフレーション理論は、原始重力波の存在を予言しています。原始重力波は、インフレーション中の時空の量子揺らぎから直接生成されます。重力波は物質との相互作用が弱いため、透過性が高く、インフレーション中に生成された際の量子性を保ったまま、現在まで伝搬してくることが期待されています。本講演では、量子情報理論の最近の発展を原始重力波に応用することで,その量子性が検証可能かどうかを議論します。
代数的場の量子論は、場の量子論の作用素環による数学的な公理的な枠組みの一つである。そこでは、場の量子論のモデルは、時空の各領域に作用素環を対応させる写像として定義される。各領域の作用素環は、その領域で観測できる物理量が生成する環と解釈される。このような抽象的な枠組みからも、散乱行列、相互作用の有無、2つの状態の間の相対エントロピーなどを定義することが可能である。現実的な場の量子論の構成が困難な中、場の量子論とは数学的にどんなものであるべきかを調べるために考えられた枠組みであるが、構成的場の量子論や、近年の共形場理論発展によって、低次元時空では多くの例が作られてきた。近年になって、場の量子論での測定を論じる試みも発展してきている。本講演では、これらに関係した基礎的な問題と今後の展望を概観する。
巨視的な系で量子重ね合わせの証拠をつかみたいという興味で始まった超伝導回路の研究が、電気回路の量子力学的な振る舞いに関する理解を導いた。また、当初想定外だった、量子情報さらには量子コンピュータに関する理論の発展に触発されて、超伝導量子ビットの実現につながった。ジョセフソン接合を有する非調和的な共振回路としての超伝導量子ビットは、そのコヒーレンス性能の向上に伴い、数十から数百量子ビット規模の量子プロセッサユニットへの集積化を可能としている。一方、現在、集積化のスケールアップと、量子ビットの制御および読み出し忠実度の向上が課題となっている。多数の量子ビットからなる回路の上で実現される量子計算は、巨視的な系での量子重ね合わせを体現する。
スケーラブルな量子コンピュータの実現には、長いコヒーレンス時間と高い接続性を両立する量子ビットが求められる。電子は、電荷とスピンという2種類の自由度を持ち、さらに可搬性も備えることから、有望な候補である。半導体中の電子を用いた電荷量子ビットでは、コヒーレンス時間は約1マイクロ秒に限られていた[Connors et al., Nat. Commun. 13, 940 (2022)]が、固体ネオン上の浮揚電子を用いた電荷量子ビットは2022年に初めて実現され、真空中という純粋な環境により約100マイクロ秒のコヒーレンス時間が得られている[Zhouら, Nature 605, 46 (2022); Nat. Phys. 20, 116 (2024)]。さらに、スピン状態のコヒーレンス時間は1〜100秒に達する可能性が理論的に示されている[Chenら, Quantum Sci. Technol. 7, 045016 (2022)]。我々は最近、スピン実装を視野に入れ、磁場に強いNbTiN薄膜で作製した超伝導共振器を用いて、電荷量子ビットを実現した。将来的にはスピン状態を量子ビットとして実装することを目指しており、電荷状態を介したスピン間の電気的結合を活用するため、電荷状態のコヒーレンス時間も引き続き重要である。
古典論とは対照的に量子論において状態は連続的な自由度を持つ。一方でスタビライザー状態は代数的に定義された量子状態のクラスであり、離散的な自由度しかもたない。スタビライザー状態はエンタングルメントなどの基本的な性質を持つ量子状態(例えばベル状態)を含み、量子誤り訂正符号や測定型量子計算などの量子情報処理において重要な役割を果たす。スタビライザー状態は1990年代後半に定義されたが、その約10年前にフランスの数学者 André Bouchet によって数理的に等価なものがマトロイド理論の文脈で定義されていた。また関連して、グラフマイナー理論と類似したグラフ頂点マイナーの理論が2005年頃から研究されている。本発表ではこれらの数学的概念が量子情報とは独立に発展してきた歴史と量子情報研究との関係について紹介する。
黒体輻射の古典的記述の破綻に端を発した量子論は、その後の行列力学・波動力学の定式化から百年を経た今日においても、その根幹たる量子的自然像とは何かについて一致した見解を得るには至っていない。本講演では、80年代半ばから素粒子論・場の量子論の研究に携わった1個人としての立場から量子力学の基礎の研究の流れを振り返り、今後の研究の方向性について感想を述べたい。場の大域的性質と量子力学的対称性の破れ(量子異常)、ゲージ理論の非同値量子化といった量子論の構成に関わる問題や、量子もつれ状態の内包する非古典的な様相や不確定性関係の確率論的な視点、さらに量子物理量としての「弱値」の解釈等に触れつつ、古典物理との連続性と断絶性の両面を持つ量子物理の将来像について、独自の偏見に基づいて展望する。