Speaker
Gen Kimura
(Shibaura Institute of Technology)
Description
量子基礎論の中心的なテーマの一つにベルの定理がある.この定理は,量子論,ひいてはこの世界の本質を理解するために,素朴な実在論や局所的な世界観が妥当かどうかを,科学的に議論する道を開いた.もう少し正確に言えば,アインシュタインをはじめとする多くの物理学者が重視した「実在」(すなわち,観測とは独立に対象が「存在する」こと)という考えに対し,自然科学として重要な前提である局所性,さらに測定の種類を自由に選べるという前提(いわゆる「自由意志」の存在)を仮定すると,ある不等式(ベルの不等式)が成立することが証明される.
重要なのは,この不等式が実験によって検証可能な形をしていることであり,しかも量子論はその不等式の破れを予言する点にある.1970年代後半から始まった実験的検証により,この破れは統計的に優位に確認されており,私たちの世界を局所実在論に基づいて説明することはできないという,きわめて驚くべき結論が導かれている.
ベルの定理は「科学における最も深遠な結果」とも評されるほど,その意義は計り知れないが,それと同時に,「実在」や「自由意志」といった,それ自体では実証不可能な形而上学的概念が,適切な仮定のもとで組み合わされることで,実験による検証が可能となるという事実も,極めて重要である.
かつてシモニーはこれを「実験形而上学」と呼び,その後,レゲット–ガークの不等式,因果不等式,友人不等式など,ベルの定理にとどまらない実験形而上学の展開が進んでいる.
本チュートリアル講演では,こうした背景をふまえつつ,ベルの定理を中心とした実験形而上学の意義と内容について,物理学として過度に哲学的になりすぎない形で,丁寧に解説することを目指す.
Primary author
Gen Kimura
(Shibaura Institute of Technology)