Aug 3 – 7, 2026
京都大学基礎物理学研究所
Asia/Tokyo timezone

開放量子系における緩和時間の普遍則 --- 完全正値性, k-正値性の物理

Aug 7, 2026, 3:10 PM
40m
湯川記念館 パナソニック国際交流ホール (京都大学基礎物理学研究所)

湯川記念館 パナソニック国際交流ホール

京都大学基礎物理学研究所

京都市左京区北白川追分町
Invited talk Invited talk

Speaker

Prof. Gen Kimura (Tohoku University)

Description

量子マルコフ過程は,量子光学,量子情報,量子測定,非平衡統計力学など,さまざまな分野で重要な役割を果たしている.とくに,完全正値性を取り入れた量子マルコフ過程のマスター方程式の標準形が,1976年に Gorini-Kossakowski-Sudarshan および Lindblad によって確立されたことはよく知られている.この方程式は Lindblad 方程式,あるいは近年では,より公平に,GKLS 方程式,または GKSL 方程式と呼ばれている.

時間発展写像の性質である完全正値性は,開放量子系の理論だけでなく,量子情報科学においても広く受け入れられている.完全正値性を課す理由の一つは,対象とする系を,環境を含むより大きな複合系の一部とみなし,その全体系の状態が時間発展のもとで常に正であり続けるべきである,という自然な考え方にある.しかし,この要請の妥当性,とりわけそれが普遍的に成り立つのかは,詳しく見ると必ずしも自明ではない.例えば,対象系と環境系を合わせた全体系を孤立系とみなし,そこにシュレーディンガー方程式を仮定したうえで,環境系を縮約して対象系のダイナミクスを導くという通常の縮約力学の立場では完全正値性が直接証明できると考えられているが,初期相関の問題を考慮すると,対象系の時間発展に必ずしも成立しないと論じられることもある.

このような問題意識から,我々は以前より,完全正値性が緩和時間に課す普遍的な制約を研究してきた.その目的は,完全正値性を直接的に実験検証するための一つの道筋を与えることである [1,2,3,4,5].最近,我々は,この種の緩和時間に対するタイトで普遍的な法則を証明した [1,3,6].さらに,完全正値性を $2$-正値性,$k$-正値性,および Schwarz クラスに置き換えた場合へと解析を拡張することにも成功した [7,8,9].興味深いことに,$k$-正値性から得られるタイトな制約は,完全正値性から得られる制約と一致する一方で,Schwarz クラスだけは異なる制約を与えることが分かった.

本講演では,これらの最近の結果を紹介する.

[1] G. K., Phys. Rev. A 66, 062113 (2002).
[2] G. K., S. Ajisaka, K. Watanabe, Open Syst. Inform. Dynam. 24(4), 1-8 (2017).
[3] D. Chruściński, G. K., A. Kossakowski, Y. Shishido, Phys. Rev. Lett. 127, 050401 (2021).
[4] D. Chruściński, R. Fujii, G. K., H. Ohno, Linear Algebra Appl. 630, 293-305 (2021).
[5] D. Chruściński, G. K., F. Muratore-Ginanneschi, J. Phys. A: Math. Theor. 57, 185302 (2024).
[6] P. Muratore-Ginanneschi, G. K., D. Chruściński, J. Phys. A: Math. Theor. 58, 045306 (2025).
[7] D. Chruściński, F. vom Ende, G. K., P. Muratore-Ginanneschi, Rep. Prog. Phys. 88, 097602 (2025).
[8] F. vom Ende, D. Chruściński, G. K., P. Muratore-Ginanneschi, Linear Algebra Appl. 730, 262 (2026).
[9] P. Muratore-Ginanneschi, G. K., F. vom Ende, D. Chruściński, arXiv:2510.19657. To appear in Proceedings of the Royal Society A: Mathematical, Physical and Engineering Sciences.

Author

Prof. Gen Kimura (Tohoku University)

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