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標準的な量子情報理論では,合成系の状態は局所系に対する測定統計により一意に決定されるという local tomography が通常仮定される.この性質の下では,局所系の状態から定まる product state は標準的なテンソル積状態として一意に記述され,合成系上の情報量もこの構造を前提として定式化される.
一方,local tomography を満たさない non-local tomographic なモデルでは,局所系の測定統計だけでは合成系の状態を一意に識別できない.そのため,局所的には同じ product state として振る舞う状態であっても,合成系全体では異なる状態として実現される可能性がある.このことは,non-local tomographic な理論において情報量や仮説検定を考える際の本質的な問題である.
本研究では,この問題を扱う枠組みとして,一般確率論(General Probabilistic Theories; GPTs)の中でも Euclidean Jordan algebras(EJAs)に基づくモデルを考える.EJAs は一意なスペクトル分解を備えているため,量子情報理論に現れるいくつかの情報量を代数的に拡張・定義できる.また,EJAs の合成系は一般に non-local tomographic な構造を自然に含むため,上記の問題を解析するための具体的な舞台を与える.
このような EJAs の合成系では,局所系の状態から代数的テンソル積により定まる標準的なproduct state だけでなく,局所的な測定統計に関してはそれと同一でありながら,合成系全体の状態としては異なる非標準的な product state が存在しうる.したがって,non-local tomographyの下では,product state の差異が局所的な記述には現れず,その差異が情報量および仮説検定の振る舞いにどのように反映されるかが問題となる.
本研究の主な結果は以下の二点である。第一に,sandwiched relative R´enyi entropy が,このような非標準的な product state に対して真に super additive な振る舞いを示すことを明らかにする.第二に,非標準的な product state の列が relative entropy の意味で漸近的に標準的なproduct state に近づく場合,そのような非標準的な product state の列に対しても,EJAs 上で仮説検定に関する Stein の補題が成立することを示す.
本研究は,non-local tomographic なモデルの代表例である実量子論および四元数量子論に加え,通常の量子論において non-local tomographic なモデルと同等の設定を考える場合にも適用可能であり,そのような設定上で情報理論を構築するための端緒となることが期待される.
[1] J. Faraut and A. Kor´anyi, Analysis on Symmetric Cones, Oxford Mathematical Mono-graphs, Clarendon Press, Oxford, 1994.
[2] M. Hayashi. Quantum Information Theory: Mathematical Foundation. Graduate Textsin Physics. Springer, 2017.
[3] M. Wilce H. Barnum. Composites and categories of euclidean jordan algebras. Quantum,4, 2016.