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Description
本発表では, 次の密度行列空間 $\mathcal{D}(\mathbb{C}^d)$ 上の拡散型確率マスター方程式を扱い, パラメータ $\theta=(\alpha,\beta)\in\Theta$ に関する推定の問題を扱う:
$$ d\rho_t^\theta = \mathcal{L}^{\theta}(\rho_t^\theta)\,dt + \mathcal{H}^{\beta}(\rho_t^\theta)\cdot d\mathbf{W}_t,\qquad 0\leq t\leq T. $$ ただし, $\Theta$ は有限次元ユークリッド空間内のコンパクトかつ内点を持つ凸集合とし, $\mathbf{W}_t$ は標準 $r$ 次元ブラウン運動, 移流項の $\mathcal{L}^\theta$ は $\mathcal{D}(\mathbb{C}^d)$ 上の Lindblad 型作用素として次で与えられる: $$ \mathcal{L}^{\theta}(\rho) = -i[H^\alpha,\rho] + \sum_{k=1}^r \left( L_k^\beta\rho (L_k^\beta)^* - \frac12\{(L_k^\beta)^*L_k^\beta,\rho\} \right),\qquad \rho\in\mathcal{D}(\mathbb{C}^d). $$ ここで, $H^\alpha$ は $d$ 次エルミート行列, $L_k^\beta$ は $d$ 次正方行列であり, 拡散項は $\rho\in\mathcal{D}(\mathbb{C}^d)$ に対して $$ \mathcal{H}^{\beta}(\rho)\cdot d\mathbf{W}_t = \sum_{k=1}^{r} \left( L_k^\beta\rho + \rho(L_k^\beta)^* - \operatorname{Tr}\!\left( L_k^\beta\rho + \rho(L_k^\beta)^* \right)\rho \right)dW_t^{(k)} $$ で定める. また, $A,B\in M_d(\mathbb{C})$ に対して, $$ [A,B] = AB-BA,\qquad \{A,B\} = AB+BA $$ とする. このとき, 観測結果として得られる $\mathbf{Y}_t$ は, $\Theta$ の内点で与えられる真値 $\theta_0$ に対して, $$ dY_t^{(k)} = \operatorname{Tr}\!\left\{ L_k^{\beta_0}\rho_t^{\theta_0} + \rho_t^{\theta_0}(L_k^{\beta_0})^* \right\}\,dt + dW_t^{(k)},\qquad k=1,\ldots,r, $$ を満たすものとし, $\theta_0$, $\rho_t^{\theta_0}$ および $\mathbf{W}_t$ は未知とする. 確率マスター方程式は, 量子フィルタリング理論やホモダイン検出などにおいて連続時間量子軌道を記述する際に現れ, ハミルトニアン $H^\alpha$ と, 外部環境や測定装置との相互作用に関わる測定作用素, あるいは結合作用素 $L_k^\beta$ を用いて, 測定結果に条件づけられた量子状態の時間発展を記述している. この際, ハミルトニアンの係数や結合強度などが未知なことがあり, 連続測定で得られる観測記録から未知パラメータを推定し, その推定精度を評価するための統計理論が必要とされる. 本発表では, 同一の実験設定の下で独立に得られた $N$ 本の量子軌道に基づいて得られる観測 $\mathbf{Y}^{(i)}$, $i=1,\dots,N$, を用いて, 未知パラメータ $\theta$ を推定する大標本理論の問題を考察する. 推定量の構成では, 観測記録ごとに確率マスター方程式を逐次的に解くのではなく, 未知パラメータの変化が観測過程のドリフトにどのように反映されるかを用いる. これにより, 観測データと平均的な量子状態の時間発展との対応を利用して, 複数の観測記録に含まれるパラメータ情報を抽出する. 主結果として, 観測時間 $T$ を固定し, 独立な量子軌道の本数 $N$ が増加する大標本における漸近理論の枠組みにおいて, 適切な正則性条件および識別可能性条件を課し, 提案する推定量が強一致性および漸近正規性をもつことを示す. 加えて, 漸近分散に対応する分散推定量を観測データから構成し, その強一致性も示す. これにより, 連続測定下の量子ダイナミクスに対して, 未知パラメータの推定だけでなく, 標準誤差を通じて推定精度を評価するための理論的基盤を得る.